能で鬼を演じるときにも、「つよいばかりであってはこれはあらいのであって、真につよいことにはならない」し、また美しくも面白くもない。
そんな風に世阿弥は説いたのだと言うのは、白洲正子氏である。
抑えることで力がこもる、形が整うと。
衣は外見を演出するものでなく心を容れるもの。
人のふるまいを、生きる構えをかたどるためにあるとする。
そんな彼女だから生まれた言葉が、
「動きは早くても荒くならぬよう、型は多くても粗雑に流れるよう、
そのためにこのような重い装束をつけるのはかえって助けになる」
深い言葉である。