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くちびるに歌を持て 心に太陽を持て  ⑳

どうやら本日はクリスマスのようである。

この年になるともはや関係がなくなるのか、何の感動もない。

しかしなにもないのもさびしいような気がするので、小檜山さんの力をお借りしてほっこりしたいと思います。

 

メリークリスマス。

 

 

 

左手の中       小檜山 博            (理念と経営より)

ぼくの息子は10歳のとき風をこじらせて入院した。

そこの隣室に入院している中学1年の少女が、いつもあちらこちらの病室を歩き回っては患者に追い払われたり看護師に叱られていた。

看護師の話では少女はもう病気がなおっているのに「おなかが痛い」と退院しないらしかった。

 

少女はぼくの息子の部屋へもしょっちゅうきては息子を励ましたり、額の氷嚢の位置を直してくれた。

きれいな顔立ちの少女だったが眼に怯えがただよっていた。

彼女はいつも左手に小さく折りたたんだ紙を握っていた。

 

ある日、向かいの部屋に入院している中年女性がきて少女の話をした。

少女の父親は3年前、事業に失敗して夜逃げし、半年後、母親が酒場で知り合った男と蒸発、少女は置き去りにされたという。

母方の祖母に引き取られたが、その祖母にいじめられるため少女は家へ帰りたがらないのだという。

少女はぼくや妻が家へ戻る間、「お兄ちゃん見てるから、ゆっくり行っておいで」と言い、息子に食事を食べさせてくれるなどの世話をしてくれた。

 

息子が退院する前の晩、少女がぼくの妻に紙片を見せ、「ここへ電話をかけてほしいの」と言った。

紙片には男と逃げた母親の電話番号が書いてあった。 少女は一度、自分で母に電話をかけて怒鳴られ、もうかけられないと言った。

関西方面らしい番号に妻が電話をかける。

呼び出し音のあと「ただいま使われておりません」という声が入る。

二度かけても同じだ。

 

電話を切って説明すると少女は「お願い、もう一度だけかけてみて」と泣きそうな声で言う。

かけ直しても同じだった。

再び紙片を握ってうつむいた少女の眼から涙が棒になってしたたり落ちた。

 

 

10年後、ぼくが肝臓の検査でその病院を訪れると彼女がいた。

院長の温情によって看護師になっていた。

 

 

 

 

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