前日に朝食は6時にお願いしますとジンノさんに伝えてありましたので、その時間までにすべての身支度を整え、後はご飯食べて出発のみ。
食卓に降りていきますと、昨日の素敵なおばさまたちはすでに出発されておりました。 あれからまだ飲んでいたと思うのに・・・ やりまんなー。
今日もおいしい朝食を一人でいただいておりますと、やさしいジンノさんが話し相手になりに来てくれました。
何か伝えたそうな感じです・・ すると、 ジンノさんは丁寧に基本の歩き方を話し始めるのでありました。
「左右の足にきちんと体重を完全に移動しながら歩を進めること」 「膝をばねのように使うこと」 「気持ちを明るく持ち、喜びがあれば痛みは感じなくなる」 「途中でどうしてもダメになりそうだったら、二峰めの寒風山を過ぎた桑瀬峠からのエスケープロードで下の駐車場に出てヒッチハイクしなさい」 ・・・・
そのような内容を手短に、そしておせっかいを気にしながらのように伝えてくださるのでした。
私はめしを食いながら本当にありがたくそのお話を聞いておりました。
それまで私は少し登ってみてダメそうだったら帰ってきますので、丸山荘下の登山口(私の足で2時間?)にタクシーを呼んでくださいね。 と何度かお願いをしておりました。
そのことを覚えているジンノさんは、恐らく 「何とか私を登らせてやりたい、 こいつに後悔させる山行はさせたくない、 なんとか喜びを持って帰ってもらいたい」 そんな風に考え、そのために今の自分ができることを伝えてやろうと思って下さったのではなかろうかと思えるのです。
それを押し付けにならぬように、遠慮がちに話してくれる彼女が天女のように思えたことは事実です。(見た目はちがう!)
このような話をまともに聞かない私ですが、この時はビックリするくらい感謝の気持ちを持って聞くことができました。 本当にありがとうございました。
そんな輝く気持ちをいただいた私は、挨拶もそこそこに丸山荘の玄関を後にするのでありました。
さて、最初はゆりかごの森へのアプローチです。 この登りの1歩目で状態が分かります。
違和感は残るものの、 登れる。 2歩目、 痛くはない。 あぁ、 いけるかも・・
天気は最高。 まさに気分は高気圧ガールです。
しかし、それはそれ。 来る時の地獄の痛みを忘れてはいません。 気分はハイでも、動きは慎重。 丁寧に一歩ずつ登ります。 ジンノさんの言葉と共に・・
そして、 一歩ずつ開けていく光景に目を奪われます。
初めてみる光景ばかりです。
森も、 登山道も、 熊笹も、 山も、 空も、 太陽も、 風も、 雲も、 そして、 あの時見たくて見たくてしょうがなかった丸山荘の屋根も。
そのどれもが当たり前ではなく、 感動と感謝と共に目の中に広がります。
足を取られながら滑ったあの場所も、 不安だったあの時の場所も、 光輝く太陽がすべて明るく見せなおし、癒してくれるということを体験させていただきながら進んでいきます。 もちろん、天女ジンノさんの言葉と共に・・
丁寧に丁寧に、言いつけを守りながら進む私の膝は、壊れそうで壊れないぎりぎりのバランスを保っているような感覚ですが、 それでも確実に一歩が踏み出せています。
来るときに何度も思いました。 前に出なくなった右足、 本当なら左右交互に一歩が出るのに、同じ時間をかけてもでも半歩以下しか進めない。 その悔しさ、まどろっこしさ、腹ただしさ。
こんなに普通に歩めることがすごいと思ったことはありませんでした。
ありがたい、 ありがとうと、 何度も繰り返しながらゆっくりと登りきったところに、 200名山・笹ヶ峰の頂上が待っていてくれました。
(もっともっとつづく)