久しぶりに見た夜明けの前の前の前の空気の色でした。 静寂という確かに存在する音と共に在る色です。 私が生まれる瞬間に体験したかのような気持ちに帰らせてくれます。
到底人間が作り出せない色であります。 その色にはあたかも意思があるようにも思えますし、無でもあるとも思える色で、何回見ても魂の故郷に帰ったような気持ちになる色です。 体のすべての機能が停止したような、不思議な無重力感が好きです。 一瞬に生まれて消えるとても短い色ですが・・
いい朝です。 完璧です。 ありがとうございますです。 さあ、 石鎚山です。 雨です。 かみさん行くかなあ?
しらさ特製のおにぎり弁当を作ってもらい、7時半頃丁寧なお見送りを受けながら出発です。 また来ます。 小森さん。
土小屋の駐車場は雨だというのに満杯、路上にも車はあふれています。 さすが、 石鎚。 私たちもカッパ、雨靴に身を包み、いざ登山道へ。
ぬれ落ち葉を踏みしめながら、どちらかというとトボトボと歩いていきます。 何せかみさんのペースは初心者ですので、中堅以上のじい様、ばあさまたちにどんどん抜かれていきます。 さすがにここまで来る年寄りはちゃいまんなー。
でもこちらもマイペースで十分楽しみながら、ゆっくり味わいながら3時間以上かけたでしょうか? 後半バテたかみさんのたびたびの休憩によるものですが、初登山かつ雨の中で滑る足元を気遣いながらとしてはいいペースではないでしょうか。
苦労した分、頂上の満足感はひとしおだったようです。
石鎚頂上神社に感謝奉納をさせていただき、さてお札でもとうろうろしておりましたら・・
「田中さん?」 とか言う声が・・ わたしのこと ? とか思って振り向きましたら、 知らないような・・ どっかであったような・・ おっちゃんが・・ 。
「Tですが、 昔バイクに乗ってた」 「おぉっ、 T君かー」(丸々としてしもうてわからんがなー) 「なんでこんなとこに居るん?そんな恰好してー」(神主の恰好)
「いやー、 誰にも言わんかったけど実は神主でんねん」 「はぁー」(昔はバイク屋の店員、ある時はガソリンスタンドの店員、諸々やってた。しかしえらい高尚な話をいつもしていた) 「これが本業なんよー」 「うそー」 「ほんま」 ・・・
みたいな話をかれこれしたが、まあ神主の恰好して石鎚頂上神社の中にいるのだからこれがホンマやなぁ。 聞けば2週間交代で本社と行き来するとのこと。 たまたま二三日前にここに上がってきたとのこと。
このタイミングで会うかー? って感じですが、この出会いは20年以上ぶりでした。
周りは霧で真っ白な世界の中で何とも不思議なご縁を頂きました。 その後かみさんと山小屋の食堂でなんか食おうとしてましたら、T神主が現れ、さっさと厨房に指示しておでんを2皿用意し、 「出会いのご縁で御馳走します」 と言ってさっさと行こうとするもんだから、「それはいかん、金は払う」というと、「田中さんもいろいろやっとるんやけん、ごちそうさせてや」「そのお返しはまた世の中の誰かに返してあげてや」
そう言ってさっそうと霧の中に消えていくのでした。
「わかった、 ありがとう」 と言うのが精いっぱいの状態でした。
なんでいろいろやってるって知ってんやろ?とかもあるけど、誰かに返してあげてや、言う文句は自分でも使ってるだけに反論できへんかったけど、そんなこと以上にうれしさとありがたさと感謝でいっぱいになっていました。
標高1980mくらいでいただくおでんは、生まれて初めての味がしました。 感動という味付けが更なるうまみになったのでしょう。
「あらためてありがとう、そしてごちそうさまでしたT神主さん。 きっと世の中にお返しさせていただきます」
おいしいおでんをいただき、さて出発するかな? と思っていたら、 なんと今度は山荘しらさでご一緒させていただいた天狗のマナベさんがお声をかけて下さるではありませんか? なんとまあ、 です。 マナベさんは車を使わずに来ているはずなので山荘しらさからも歩きのはずです。 なんとタフな天狗様でしょう。
そしてこのご縁にと写真を一緒に撮りましょうと誘っていただき、記念撮影後、何とも名残惜しい気持ちのままお別れするのでありました。
昨夜初めてお会いし、ストーブの前でお話しさせていただき、そして山頂で再会しただけのお話しですが、 なんでこんなに恋しいような気持ちになるんでしょう。 これが山の持つ魅力のひとつなんでしょうか?
ハマるとヤバイなあ、 という感じです。 でもまたお会いできそうな予感です。 ありがとうございました。 マナベさん。
とても厳しい世界で出会うと、美しい世界で出会うと、目的のある中で出会うと、 何かが違って見えます。 とても思い出に残る旅になりました。
今でもすぐに清々しい気持ちになれる場所と人のお話でした。
(おしまい)