先日ブルーマーブルのオーナー藤山氏がイタリア取材の旅から帰ってきた。 翌日疲れもそのままにうちの事務所にお土産と土産話を届けに来てくれた。 あまりに情熱的な、まさにイタリア的なその話しぶりに思わず引きつけられた私は久しぶりに人の旅の旅の話で興奮した。 大体において人が旅してきた話なんぞ「あーよかったねー」で終わらせたいもんだが、藤山氏の話はちと違った。
彼はもちろん飲食の道のプロであるのだが、元々は大手新聞社のカメラマンとして活躍していたのでカメラの腕前もプロである。 そしておまけにその人懐っこい風貌と語りかけのおかげで本当に人を安心させてしまう何かがある。 このあたりはわたしは大いに学ばねばならぬのだが ・・
その彼がまさに熱のさめやらぬまま矢継ぎ早に旅のエピソードを語ってくれた中の一つをご紹介しよう。 後日改めてイタリア報告会をブルーマーブルで行うと思うので詳細はその時聞きに来てね。
いくつかの話はどれも興味深く、限られた時間はあっという間に過ぎていったのだがその中でもびっくりしたのが、 ローマにある一つのカフェ。
其のカフェはこちらの雑誌等ではあまり知られていないのだが、そこはカフェオーナーであり、カッピングジャッジの藤山氏、どこからともなくその店を直感的に探し出した。 そして他の店の取材をけってでもそこに行くことにしたそうなのだが、探しても見つからない。 地元の人に聞いても「知らない」という。 探せど探せどないのだが、住所は確かにこのあたり・・・ まさか、この小さな店ってことはないよなー、などと思いながら確認すると、 「ここです」
そのお店はブルーマーブルの大きさの約半分。 約10坪(20畳)。 「へっ?」 ここがあの知る人ぞ知るお店?
ところがどっこいそのお店はほぼスタンディングの形式にも関わらず大入り満員。 朝8時から夜2時まで大入り満員。
そりゃそうでしょう、1日の来店客数を聞いてびっくりしました。 1日6000人。
うそ~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!! って言いました。 何回も言いました。藤山さんに。
だって超有名なオーストラリアのカフェでも1日1000人ですよ。 それがいくらなんでも10坪の店で1日6000人なんて・・・・・・・
でも 現実でした。 当の本人の藤山氏は当然私なんかよりもショックを受けておりました。 今まで自分がやってきたことは・・・ とか 世界とは・・・ とか いろいろ言われておりましたのでかれこれカルチャーショックだったのでしょう。 でもこの数字は尋常ではないのです。本当に。
私は聞きました。 「何がちがうのですか? コーヒーがうまいのですか?」 答えは「別世界のごとくうまい」 でした。 カッピングジャッジhttp://www.cerrad.co.jp/p13_cupping/ 有資格者が喉ほって言うのですから私は思わず唾を飲み込みました。 「ゴクッ、 の のみたい」
彼は熱いままのまなざしで私にたたみかけて言います。 「もう一度必ず飲み行く」 出版社から依頼された取材旅行のため泣く泣く帰国してきた早々にまた行く宣言。 これはもはや私も行かねば・・という気になりますよねー。 エスプレッソの泡をスプーンですくって食べてもめちゃうま。 しかも泡が消えない。 飲んでもなぜこんな味がするのかわからない。 一か所だけついたてに覆われていたカウンターに秘密がありそうだと直感した彼はそこをのぞき込もうとした瞬間。 「nono」
撃沈でした。 しかし、やはりそこにあるのです。 他の店とは全く違うコーヒーに仕立ててしまう秘密が。 このあと恐らく彼はブルーマーブルにて試行錯誤を重ねていくことになると思います。 あの様子だともう止められないと思います。 私たちはひょっとすると松山にいながらにして世界の名だたる人が足しげく通うローマの老舗の味を官能できるやも知れません。 ガンバレー、ふ・じ・や・まっ。。
このお店、これだけ有名なのになぜ廻りのお店は彼が聞いても知らないと答えたのでしょう? 彼曰く、同じ時間帯でもこのお店だけ人が溢れ、他の店は数人の客しかいなかったことから恐らく教えたくなかったのだろうということでした。 わかるような気も・・
しかしその驚くべき味が人を引き付けるのは理解できたとしても6000人にはつながりにくいのですが、彼はここから素晴しい観察眼と質問力で手に入れたことを教えてくれました。
一人の客の滞在時間はほぼ30分、入ってきて従業員やオーナーにまず挨拶をし、おもむろにエスプレッソなりを注文し、一日述べ15人のスタッフが職人のごとくコーヒーを抽出し、そのコーヒーを隣り合わせた客同士おしゃべりしながら飲み干したかと思うと、 「チャオ」 と言いながら颯爽と帰っていくらしいのです。 入ってきて「チャオ」 帰りがけに「チャオ」 チャオは両方に使う挨拶なのですが、この店で一日にさて何回の「チャオ」が聞こえるのでしょう? 正解者にイタリア旅行はありませんが、あまりにも幸せなお店であることはわかりますねえ。
彼は続けます。 世界の有名人は来るたびに訪れるのですが、客のほとんどは地元の人で、中には外に車を止めて急ぎクイッとエスプレッソをひっかけておしゃべりや挨拶を楽しんでスイッと出ていく人も。 そう、ここは典型的な地元の社交場でもあるらしいのです。 ビックリしたというのが、小学6年生くらいの子供が一人でここにきてフツーに大人に混じってジュースを飲んでいたこと、 必ず帰りがけにお客は他のお客と店員さんに挨拶をして帰ること、 常連さんがほとんどだが毎日最低1回は来店することで安否の確認もできていること、 店員さんが誇りを持って仕事をしていること。
ここではまさに日本の都市部から失われてしまったらしきコミュニティーが昔のまんま存続し続けている。 そのことを彼の話を聞きながら強烈に意識しました。 たった10坪のお店で、百数十年、まんまのスタイルでこのローマの町を支えているこのお店。 行政が逆立ちしてもできないことを仕事として行いながらも +α の社会貢献も実現し続けている。
藤山さんが求め、私も求めている世界が10坪の世界の中にあった。
素晴しいお話でした。 こんなお話が聞けるだけでも素直に幸せです。
このお店の名前、 彼は公表するかどうか迷っています。 また理念なき心ない人たちが押しかけていくことを危惧しながら・・