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くちびるに歌を持て 心に太陽を持て ⑤

私の友人も様々な病気に見舞われるようになった。 五十歳というお年頃なのでいたし方ないというか、そうやって万人は老いてゆくのだが、身近に迫る現実を親しい人を通してみると我が事のように感じるのは事実である。 私もきちんと調べてもらえと本気で心配してくれる友人がいることに、心から感謝でき、また喜びを感じる。 

健康が当たり前ではないことは病気になれば分かる。 そうなる前に本気で気づくことができることは並大抵のことではないのだが・・    

今回の小檜山節もハッとする空間を描いてくれている。

 

 

病院にて   小檜山 博    「理念と経営」特集記事より

『ことしも七月に人間ドッグで胃カメラを含めての検診を受けた。 七十歳になるまでほとんど問題なかったのに、今回はすい臓の管が三倍にふくれているから再検査しろと言われて驚いた。 別の病院への紹介状をわたされ、いきなり体内を怯えが走った。 すい臓ガンではないかと思ったのだ。

次の日、病院へ向う途中、書店で家庭医学書を立ち読みする。 すい臓ガンは見つかりにくく、発見されたときは手遅れだと書いてあり、ぼくはあわてて本を閉じた。

病院でCT検査の予約をしたあと急に腹が重苦しくなり、立っているのがつらく便意はなかったがトイレへ入った。 ズボンを下げず洋式の蓋の上へ座る。 太い溜め息が出た。 ガンかもしれないと思いつづける。

しばらくしうつむいてて顔を上げると、前の壁にいくつかの落書きがあった。 その中の一つに眼が釘づけになった。

〈余命あと七ヶ月、どうしたらいいのか!! 〉

と書かれてあったのだ。 ぼくは息が詰まった。 黒のボールペンで白い壁を引っ掻くように書かれた文字は、絶望のためか砕けるみたいに歪んでいた。 死ぬまであと七ヶ月しかないとわかった五十歳くらいの人の絶叫が、聞こえたように思った。 ひどい動悸がした。

CT検査の結果、医師は、腫瘍はないと思うが慢性膵炎かもしれないし、はっきりしないからMRIで精密に調べてみようと言った。

次の検査までの十日間、ぼくはガンの不安に怯えながら、眼の底に病院のトイレの壁で見た文字が浮き出しつづけて困った。

MRI検査の日、ぼくは早めに病院へ行き、トイレへ落書きを見に行った。 あの文字だけが残っていた。 ほかの落書きは掃除係か誰かによって消されていた。 そしてなんと、一行だけ残してあるその文字の横に別の人の筆跡で

「がんばってください、負けないでください!! 」

「負けるなよ! 」 「絶対になおるから」 などの激励の落書きが加えられていたのだ。

ぼくは息を呑んだ。 凄い、人間て凄い、と思う。  ぼくは検査室へ向って歩きながら、よし、俺も大丈夫だ、と思った。 体の底から熱い力が湧き上がってくるのを感じた。

検査の結果ぼくの症状は老化によるものらしく、一年後にまた調べてみることで落ち着いた。』

 

 

 

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